ASEAN特許庁シンポジウム2019が東京で開催されました
今回で9回目になりますが、日本とASEAN特許庁とのシンポジウムが8月7日に東京で開催され、ASEAN(東南アジア諸国連合)における最新の知財施策の紹介と共に今後の展望について議論されました。
シンポジウムはパネルディスカッション形式で、(1)第4次産業革命と特許、(2)スタートアップと知財施策、(3)知財の情報発信・普及啓発、について行われました。そしてパネリストである各国の知財庁長官等から最近の動向について話があり、その中の一部をご紹介します。
■セッション1:第4次産業革命と特許
マレーシア
・マドリッド議定書は近い将来に加盟をすべく検討している。
・知財の出願件数は2018年で合計52,998件である。日本からの出願件数は4,655件で、米国の5,367件についで2位である(特許出願では日本がトップ)。
・日本とは、特許審査ハイウェイ(PPH)や、マレーシア知財公社と日本国特許庁との間のデータ交換、要望に応じた研修計画などで協力している。
フィリピン
・コンピュータプログラムやビジネス方法は、特許を受けることができない主題に分類されている。
・今後の方針として、AI/MLをはじめとして新しい動きに対応できるよう知的財産法の改正を近い時期に行う予定である。
・今後経済の原動力になっていくのは無形資産である。2018年現在、世界経済の50%超(60兆米ドル)が無形資産の形で保有されている。
・特許の審査スピードを上げ、出願から12か月間で付与、AIとFINTECHの場合には6か月で付与に至ることも可能。
タイ
・知財創造→知財保護→知財の商業化→知財執行、という知財サイクルをベースとしているが、それにGI(地理的表示)と遺伝資源・伝統的知識・伝統的文化表現の2つを追加した。
・特許法の改正を早期に実現するように企画している。併せて審査基準の改定も考えている。
■セッション2:スタートアップと知財施策
・2013年に知的財産庁が設置された。知的財産庁は研修プログラムを実施する際にスタートアップに対して知的財産意識の啓発を行うことを通じて、中小企業庁と協力している。
・これまで長い間準備していたが、2019年の1月~5月にかけて商標法、意匠法、特許法、著作権法の4つの法律が順次採択された。WIPOのメンバーにもなった。
・知的財産省の所在地はヤンゴンとネピドーである。
・英語による出願が許容されている。
・マイクロ・中小企業は企業総数の98%(2017年)、50万社を超えている。
・IP VIETNAMは、知財登録、知財情報サービス、知財に関する意識啓発、知財資源開発の支援、を行っている。
■セッション3:知財の情報発信・普及啓発
・知的財産の保護は複数の機関が分担して管轄している。すなわち、商標、地理的表示及び営業秘密は商業省、特許、実用新案、意匠、集積回路の回路配置及び植物新品種は鉱工・エネルギー省、著作権及び著作隣接権は文化芸術省、となっている。
・国際協力の一環として日本国特許庁との共同主意書(特許の付与円滑化に関する協力:CPG)が2016年に締結されている。CPG申請手続においては申請書のほか提出書類として対応日本国特許庁特許出願の特許公報の写し、及びその特許公報についての証明書、特許公報に記載された特許請求の範囲及び明細書の英語翻訳文及びクメール語翻訳文、請求項対応表が必要である。
・IP情報の効果的な発信手段としていくつかの事項を実施しているが、IPに関する情報提供不足により、あまり効果があがっているとはいえない。中小企業にIPに関する基本的な知識を普及させることが重要である。
・地理的表示情報普及後の地理的表示登録の効果の例としてアチェのGAYOコーヒーがある。登録前の価格がキロ当たり5万ルピアであったものが、登録後にはキロ当たり12万ルピアに上昇した。
・知的財産局(DIP)は1993年に設置されて以来、ラオス全国のIPの管理、保護、振興及び開発を担当している。現在、職員数は59名、8つの部局と1つのIPサービスセンターで構成されている。
・高品質のサービスを提供するためにIP制度の拡充に注力しており、そのためには人材の育成が不可欠である。また、省令の改訂や起草を進めている。
※ ASEAN加盟国:現在、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ミャンマー、ベトナム、カンボジア、インドネシア、ラオスの計10か国であり、パプアニューギニアと東ティモールが加盟の運動をしている状況。
パネルディスカッションの様子(特許庁HPより)