権利侵害の警告する際には注意を!

判決例3

 

<事件の概要>

 東京地裁平成30年(ワ)第6962号事件である。

 この事件は、原告が製造販売している製品が、被告が有する本件特許権1,2と意匠権1を侵害するとの事実を被告がウェブサイトや原告の取引者に告知し、又は流布したため、原告が被告に対して不正競争防止法第2条第1項第15号違反として、その行為の差し止めを求めたものである。

 不正競争防止法第2条第1項第15号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」を不正競争行為と定めている。

 争点は、被告は、原告が本件特許権2を侵害しているという事実を告知し、流布しているか(争点1)、被告の告知、流布する事実は虚偽であるか、本件知的財産権は消尽するか(争点2)、差止請求権の可否(争点3)、である。

 

<裁判所の判断>

■争点1について

 本件行為の時点で本件特許権2は既に消滅しており、原告製品の製造等も、本件特許権2が消滅した後に開始されたものであるから、本件行為において言及された被告の特許ないし知的財産権に本件特許権2は含まれていなかったと認めるのが自然であり、他に本件特許権2を含むものであったことを認めるに足りる証拠はない。そうであれば、被告が、原告において本件特許権2を侵害しているという事実を告知、流布していると認めるに足りず、原告の主張を採用することはできない。

(筆者註:これは明らかに原告の調査不足による誤解であろう)

 

■争点2について

 特許権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については、特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は,当該特許製品を使用し、譲渡し、又は貸し渡す行為等には及ばず、特許権者は、当該特許製品がそのままの形態を維持する限りにおいては、当該製品について特許権を行使することは許されないものと解される(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁,最高裁平成18年(受)第8526号同19年11月8日第一小法廷判決・民集61巻8号2989頁参照)。

 原告は、本件知的財産権を有する被告から、本件知的財産権の実施品である被告製品を購入しているところ、証拠(甲12~15)によれば、原告は、被告から購入したイヤーパッドである被告製品を、原告製品であるイヤホン、無線機本体、原告製品を媒介するコネクターケーブル及びPTTスイッチボックスと併せて、それぞれ別個のチャック付ポリ袋に入れ、原告製品の保証書及び取扱説明書とともに一つの紙箱の中に封かんした上で販売していると認められ、そうであれば、原告製品に被告製品を付属させて販売していたにすぎないと認められるのであり、被告による被告製品の譲渡によって被告製品については本件知的財産権は消尽すると解される。よって、原告が原告製品を製造等する行為は、被告の有する本件知的財産権を侵害しない。そうすると、原告は、本件知的財産権を侵害していないから、本件行為において告知され、流布されている原告が本件知的財産権を侵害している旨の事実は、虚偽であると認められる。

 

■争点3について

 本件行為は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、流布するものであり、弁論の全趣旨によれば、原告の取引先であるミドリ安全は、被告による本件行為を受けて原告製品の販売を停止したことが認められ、被告は現在もウェブサイト上で前記第2の2の前提事実(4)アの行為を継続していることを考慮すると、被告の不正競争によって原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあることが認められる。

 

以上の通り、原告の請求は主文の限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文の通り判決するとした(下線は筆者)。

 

<被告の主張>

 被告は、争点1については否認した。争点2については、本件覚書は心裡留保、錯誤により無効になること、消尽については適法に拡布された物でないものは特許権及び意匠権が消尽することはない旨主張した。争点3については争うとして本件行為は、原告による本件知的財産権の不当な侵害行為から自己の権利を保全するためにやむを得ず行ったものであり、不正競争防止法の規制対象となる行為ではなく、また、原告が主張する営業上の利益は、正当な権限に基づくものではないため、「営業上の利益」(不正競争防止法3条1項)に該当しない旨主張した。

しかし、裁判所は上記の通り、被告のいずれの主張も採用しなかった。

 

控訴審

 被告は本判決に対して知財高裁に敗訴部分を取り消すために控訴した(平成31年(ネ)第10023号)。しかし、知財高裁でも、控訴人の本件行為は虚偽の事実の告知又は流布に当たり、その差止めを求める被控訴人の請求には理由があると判断した。

 

<所感>

 原告の請求は争点1で誤解した点以外、相当であると思われる。一方、被告の主張は知的財産権の消尽論、それから不競法における告知、流布する事実に関しても認識不足のところがあるように思われる。そのため地裁、高裁とも原告(被控訴人)の主張が認められたが、当然といえば当然の結論であろう。過去にも、被告が原告に対して、原告が本訴請求事件を提訴したことに関して自社のウェブサイトでプレリリースしたことについて虚偽告知であるから本号の不正競争に該当するとして請求した差止め等した反訴請求を認めた例がある(知財高裁平成27年(ワ)第10522号)。

 知的財産権の侵害等、他人の権利侵害の事実や訴訟提起の事実を相手方の取引者に対して告知する行為は訴訟告知として正当になされた行為であれば正当な権利行使の一環として違法性が阻却すると考えられているが、そうでなければ不競法第2条第1項第15号に該当する場合がある。知的財産権を所有する者はとかく自己の権利を拡大解釈しがちである。特に本事例のようにウェブサイトで相手方を攻撃する行為、間接的にせよ相手方の取引者にまで影響が及ぶような行為は慎むべきであろう。