本当に人間はAIの支配により無用者階層になるのだろうか?

NHK出版から発行されている「教養としてのテクノロジー(NHK出版新書:伊藤穣一著)」には新しいテクノロジーとしてAI、仮想通貨、ブロックチェーン等に関する記事が載っている。特に、同書のAIに関する章には「AI」は「労働」をどう変えるのかについて、AIはオフィスで働く人間の仕事を代替(仕事を奪う)するのではないかと予測しつつも、AIという科学技術が人間の仕事を奪ったとしても人間が働くことがなくなるわけではない、としAIと労働について著者なりの「そもそも」論で記述されているので興味深く読ませてもらった。

 

そんな中、今朝の朝日新聞イスラエル歴史学者ハラリ氏へのインタビューとして次のような衝撃的な記事が載っていた。「人工知能(AI)とバイオテクノロジーの力でごく一握りのエリート層が、大半の人類を「ユースレスクラス(無用者階級)」として支配するかもしれない、「真の支配者(ルーラー)」はアルゴリズムになる。残された時間は多くはないと、急速にアルゴリズム(計算方法)の改良が進むコンピューターが人類を支配する将来が来かねないと警告した」とのこと。また、「今後10~20年の間に人類が直面する課題を三つ挙げた。核戦争を含む大規模な戦争、地球温暖化、そしてAIなどの「破壊的」な技術革新だ。特に技術革新については「30年後の雇用市場がどうなっているか、どんなスキルが必要なのかもわからない」と話し、どんな仕事にも就くことができない階層が世界中に広がる可能性も示した」とも。

 

もし彼の予言のように世の中が動き、AIが支配すると大半が無用者階層になるのは避けられないであろう。これには日本の経営者も関心を示し、その一人、みずほフィナンシャルグループの会長も否定しない。旅行業者と銀行員はすでに絶滅危惧種と呼ばれているそうである。しかし、なにも銀行員等だけではない。ありとあらゆる職業がAIのとってかわられるのだ。技術職だってしかりであり、税理士のような士業の仕事も例外ではない。そのため、これから新しい職に就く者、特に学生にとって、無用者階級にならないようにするにはどのような仕事に就けばよいか、今から自己の職業の選択を慎重に考えていく必要があるのではないだろうか。

権利侵害の警告する際には注意を!

判決例3

 

<事件の概要>

 東京地裁平成30年(ワ)第6962号事件である。

 この事件は、原告が製造販売している製品が、被告が有する本件特許権1,2と意匠権1を侵害するとの事実を被告がウェブサイトや原告の取引者に告知し、又は流布したため、原告が被告に対して不正競争防止法第2条第1項第15号違反として、その行為の差し止めを求めたものである。

 不正競争防止法第2条第1項第15号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」を不正競争行為と定めている。

 争点は、被告は、原告が本件特許権2を侵害しているという事実を告知し、流布しているか(争点1)、被告の告知、流布する事実は虚偽であるか、本件知的財産権は消尽するか(争点2)、差止請求権の可否(争点3)、である。

 

<裁判所の判断>

■争点1について

 本件行為の時点で本件特許権2は既に消滅しており、原告製品の製造等も、本件特許権2が消滅した後に開始されたものであるから、本件行為において言及された被告の特許ないし知的財産権に本件特許権2は含まれていなかったと認めるのが自然であり、他に本件特許権2を含むものであったことを認めるに足りる証拠はない。そうであれば、被告が、原告において本件特許権2を侵害しているという事実を告知、流布していると認めるに足りず、原告の主張を採用することはできない。

(筆者註:これは明らかに原告の調査不足による誤解であろう)

 

■争点2について

 特許権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については、特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は,当該特許製品を使用し、譲渡し、又は貸し渡す行為等には及ばず、特許権者は、当該特許製品がそのままの形態を維持する限りにおいては、当該製品について特許権を行使することは許されないものと解される(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁,最高裁平成18年(受)第8526号同19年11月8日第一小法廷判決・民集61巻8号2989頁参照)。

 原告は、本件知的財産権を有する被告から、本件知的財産権の実施品である被告製品を購入しているところ、証拠(甲12~15)によれば、原告は、被告から購入したイヤーパッドである被告製品を、原告製品であるイヤホン、無線機本体、原告製品を媒介するコネクターケーブル及びPTTスイッチボックスと併せて、それぞれ別個のチャック付ポリ袋に入れ、原告製品の保証書及び取扱説明書とともに一つの紙箱の中に封かんした上で販売していると認められ、そうであれば、原告製品に被告製品を付属させて販売していたにすぎないと認められるのであり、被告による被告製品の譲渡によって被告製品については本件知的財産権は消尽すると解される。よって、原告が原告製品を製造等する行為は、被告の有する本件知的財産権を侵害しない。そうすると、原告は、本件知的財産権を侵害していないから、本件行為において告知され、流布されている原告が本件知的財産権を侵害している旨の事実は、虚偽であると認められる。

 

■争点3について

 本件行為は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、流布するものであり、弁論の全趣旨によれば、原告の取引先であるミドリ安全は、被告による本件行為を受けて原告製品の販売を停止したことが認められ、被告は現在もウェブサイト上で前記第2の2の前提事実(4)アの行為を継続していることを考慮すると、被告の不正競争によって原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあることが認められる。

 

以上の通り、原告の請求は主文の限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文の通り判決するとした(下線は筆者)。

 

<被告の主張>

 被告は、争点1については否認した。争点2については、本件覚書は心裡留保、錯誤により無効になること、消尽については適法に拡布された物でないものは特許権及び意匠権が消尽することはない旨主張した。争点3については争うとして本件行為は、原告による本件知的財産権の不当な侵害行為から自己の権利を保全するためにやむを得ず行ったものであり、不正競争防止法の規制対象となる行為ではなく、また、原告が主張する営業上の利益は、正当な権限に基づくものではないため、「営業上の利益」(不正競争防止法3条1項)に該当しない旨主張した。

しかし、裁判所は上記の通り、被告のいずれの主張も採用しなかった。

 

控訴審

 被告は本判決に対して知財高裁に敗訴部分を取り消すために控訴した(平成31年(ネ)第10023号)。しかし、知財高裁でも、控訴人の本件行為は虚偽の事実の告知又は流布に当たり、その差止めを求める被控訴人の請求には理由があると判断した。

 

<所感>

 原告の請求は争点1で誤解した点以外、相当であると思われる。一方、被告の主張は知的財産権の消尽論、それから不競法における告知、流布する事実に関しても認識不足のところがあるように思われる。そのため地裁、高裁とも原告(被控訴人)の主張が認められたが、当然といえば当然の結論であろう。過去にも、被告が原告に対して、原告が本訴請求事件を提訴したことに関して自社のウェブサイトでプレリリースしたことについて虚偽告知であるから本号の不正競争に該当するとして請求した差止め等した反訴請求を認めた例がある(知財高裁平成27年(ワ)第10522号)。

 知的財産権の侵害等、他人の権利侵害の事実や訴訟提起の事実を相手方の取引者に対して告知する行為は訴訟告知として正当になされた行為であれば正当な権利行使の一環として違法性が阻却すると考えられているが、そうでなければ不競法第2条第1項第15号に該当する場合がある。知的財産権を所有する者はとかく自己の権利を拡大解釈しがちである。特に本事例のようにウェブサイトで相手方を攻撃する行為、間接的にせよ相手方の取引者にまで影響が及ぶような行為は慎むべきであろう。

「氏名」を含む商標もこの程度ではダメらしい

判決例

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  <事件の概要>

 知財高裁平成31年(行ケ)第10037号事件である。

本願商標について、特許庁から請求不成立の審決を受けたことから、その取消しを求めた事案である。争点は、本願商標が商標法4条1項8号に該当するとの判断の誤り(取消事由)である。

 <裁判所の判断>

1.「KENKIKUCHI」の文字部分の意味

「本願商標は、翼を広げた鷲又は鷹を黒色のシルエットで表した図形部分と、図形内に配置された「KENKIKUCHI」の文字部分とから構成された結合商標である。「KENKIKUCHI」部分は、白抜きの大文字の欧文字10字から構成され、各文字の書体及び大きさはほぼ同じで、ほぼ等間隔で1行にまとまりよく配列されている。

「KENKIKUCHI」部分は、外観上、「KEN」部分と「KIKUCHI」部分に区別して認識されるものといえる。「KEN」部分、「KIKUCHI」部分は、いずれも無理なく一連に発語することができ、前者から「ケン」、後者から「キクチ」の称呼が自然に生じる。本願商標の構成中「KENKIKUCHI」部分は、「キクチ(氏)ケン(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであるから、本願商標は人の「氏名」を含む商標であると認められる。

2.商標法4条1項8号の「他人の氏名」

商標法4条1項8号の趣旨は、自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁、最高裁平成16年(行ヒ)第343号同17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号595頁参照)ところ、自己の「氏名」であれば、それがローマ字表記されたものであるとしても、本人を指し示すものとして受け入れられている以上、その「氏名」を承諾なしに商標登録されることは、同人の人格的利益を害されることになると考えられる。したがって、同号の「氏名」には、ローマ字表記された氏名も含まれると解される。

3.本願商標の商標法4条1項8号該当性

前記1.のとおり、本願商標の構成中「KENKIKUCHI」部分は、「キクチ(氏)ケン(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであり、本願商標は人の「氏名」を含む商標であると認められる。そして、証拠(乙12~29)によれば、「キクチケン」を読みとすると考えられる「菊池健」という氏名の者が、北海道小樽市に住所を有する者として、2016年(平成28年)12月版(掲載情報は同年8月24日現在)及び2018年(平成30年)12月版(掲載情報は同年8月16日現在)の「ハローページ(小樽市版)」に掲載され(乙12,13)、同時期に発行された他の地域版の「ハローページ」(乙14~29)にも、当該地域に住所を有する者として、「キクチケン」を読みとすると考えられる「菊池健」又は「菊地健」という氏名の者が掲載されていると認められるところ、かかる事実によれば、これらの「菊池健」及び「菊地健」という氏名の者は、いずれも本願商標の登録出願時から現在まで現存している者であると推認できる。加えて、弁論の全趣旨によれば、原告と上記「菊池健」及び「菊地健」とは他人であると認められるから、本願商標は、その構成中に上記「他人の氏名」を含む商標であって、かつ上記他人の承諾を得ているものではない。したがって、本願商標は、商標法4条1項8号に該当するとし、原告の請求は理由がないとした(下線は筆者)。

 <原告の主張>

 原告は、前記1.について、本願商標はブランド「ケンキクチ」のロゴとして一定の周知性を有しており、これに接した一般需要者は,ジュエリーデザイナーである「X」及びそのデザインに係る商品のみを想起するものであって、「KENKIKUCHI」部分を「菊地健」等の「他人の氏名」と理解することはあり得ない旨主張した。また、前記2.について、商標法4条1項8号の「他人の氏名」とは,使用する者が恣意的に選択する余地がなく、特定人を指し示す法令上の正式な氏名であって、日本人の氏名の場合、戸籍簿で確定される氏名であり、ローマ字表記は含まれない旨主張した。また、前記3.について、①商標法4条1項8号の趣旨が第三者の人格権の保護であるとしても、同法は、同号の「他人の氏名」の該当性を判断するに当たり、第三者の人格権のみを考慮することは予定していないというべきであり、同法の目的である産業発展の寄与ないし需要者の利益保護の観点から、登録が拒絶されることで受ける者の不利益も十分に考慮しなければならないから、同号の「氏名」に該当するか否かは、特定人の同一性を認識させるに足りる表記であるか、あるいは、本願商標がブランドとして一定の周知性を有するかという観点から総合的に判断されるべきであり、同号の「他人」に当たるか否かは、その承諾を得ないことにより人格権の毀損が客観的に認められるに足る程度の著名性・希少性等を有する者かという観点から判断すべきである、②諸外国においても、「他人の氏名」であれば、その全てについて、その他人の承諾がない限り商標登録を認めないという判断はしておらず、特許庁の過去の審決例においても、自己の氏名をモチーフしたと考えられる多数の商標が登録査定を受けている旨主張した。

しかし、裁判所は上記の通り、原告のいずれの主張も採用しなかった。

 <所感>

 本判決は、特許庁が公表している商標法4条1項8号に関する一般的な審査基準に沿った内容となっている。本願商標は、翼を広げた鷲又は鷹を黒色のシルエットで表した図形と、図形内に白抜きで配置された「KENKIKUCHI」の文字とから構成された結合商標であるが、文字が「KEN」部分と「KIKUCHI」部分に区別して認識され、全体として氏名を表示したものであることが明らかであるとされ、このような判断となった。その判断には特に異論はなく、この程度では8号を回避することは難しいという例を提供してくれたものと捉えたい。しかし、例えば文字を称呼が生じない程度までもう少し装飾するとかすれば氏名などの意味をもたない一つの図案化した造語商標とみなし得るので、登録可能性があったはずである。出願人サイドにおいて新商標のロゴの採択には注意すべきことを示した一例とも言えよう。

商品等の立体的形状でもすべて立体商標として保護されるわけではない

判決例

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[事件の概要]

 知財高裁平成31年(行ケ)第10017号事件である。

本願商標について、特許庁から請求不成立の審決を受けたことから、その取消しを求めた事案である。争点は、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとの判断の誤り(取消事由1)と、商標法3条2項に該当しないとの判断の誤り(取消事由2)、である。

 

[裁判所の判断]

 取消事由1について

「・・客観的に見て、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当する。また、商品の具体的形状は、当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で、ある程度の選択の幅があるといえるが、そのような幅の中で選択された形状が特徴を有していたとしても、それが、機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、商標法3条1項3号に該当すると解すべきである。なぜならば、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは、公益上適当でないからである。」としたうえで、

「・・原告商品の立体的形状には、他のコンクリート製杭と明らかに区別できるほどの顕著な形状的特徴があるとはいえないこと(原告商品の形状には顕著な特徴がみられる旨をいうインダストリアルデザイナーの意見書(甲79)も、かかる評価を左右しない。)や、原告商品の需要者・取引者は一般消費者ではなく、建築基礎工事に携わる設計者及び工事業者等の限られた範囲の者であるため、購入すべき杭の決定を,上記(2)イ(ア)のとおり杭と結び付けられた工法の採用と独立して行うことは想定し難いし、同(イ)のとおり類似の形状の杭も存在する中で、原告商品の形状の特徴が杭の購入の決定に対して与える影響はわずかであると考えられることなどを考慮すると、原告商品の立体的形状が、需要者・取引者が指定商品を購入するか否かを決定する上での標識とするに足りる程に特徴的であると認めるべき事情があるともいえない。」とした。

 取消事由2について

「・・立体的形状から成る商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、①当該商標の形状の特異性及び当該形状に類似した他の商品等の存否、②当該商標が使用された期間、商品の販売数量、広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の実情を総合考慮して判断すべきである。・・「原告及び同業者が製造販売するコンクリート杭には様々な形状のものが存在し、これらの杭の組み合わせによっては、原告商品の形状の特徴のうち,杭の先端に行くに従って軸径が小さくなるとともに、視覚上は節と節との間隔が狭くなるという点に類似するものも実現し得る。そうすると、本願商標の形状の特異性はさしたるものとはいえず、当該形状に類似した他の商品も存在するといえる。」とした。

そして、これらの点を踏まえ「・・当該業界において技術力・販売力ともに優れた有力事業者である原告(このこと自体は原告自身が主張しており、証拠上も認められる。)の「のれん」や、原告提案に係る上記「SUPERニーディング工法」及び「Hybridニーディング工法」の技術的優位性から独立して、本願商標の立体的形状自体が自他商品識別力を獲得していると認定するには至らない。なぜなら、本願商標の需要者・取引者は一般消費者ではなく、建設業界において基礎工事に携わる限られた範囲の者であるため、需要者・取引者が本願商標の立体的形状に接したとき、原告商品を想起するとしても、それは原告の提案する各工法との関連においてであると考えられるからである。」とし、原告の請求は理由がないとした(下線は筆者)。

 

[原告の主張]

 原告は取消事由1について、「立体商標の形状の特徴は、その全体と、需要者・取引者の注意を惹く部分との両者を有機的に結合させて判断すべきであり、また、このような判断の結果、形状の特異性が認められる場合には、機能又は美観上の理由による形状又は装飾等と予想し得る範囲であることが明白であると容易に認定できない限り、商標法3条1項3号該当性は否定されるべきである」と主張した。また、取消事由2について、「本願商標を付した基礎杭(商品名「BF.Sパイル」。以下、「原告商品」という。)を含む2種類の工法(「SUPERニーディング工法」及び「Hybridニーディング工法」)は、SUPERニーディング工法が平成12年、Hybridニーディング工法が平成13年にそれぞれ国土交通大臣の認可を取得し、以後平成13年から平成30年までの間に、原告商品は、公共施設、病院、教育機関、物流施設、スポーツ施設等代表的な建造物を含む全国2769箇所の建築現場で累計15万本以上が採用され、211億円以上の売上実績を上げている」等々と主張した。

 しかし、裁判所は上記の通り、原告の主張を採用しなかった。

 

[参考]

 特許庁の商標審査基準では立体商標の識別力に関する審査の具体的な取扱いについて次のように規定している。すなわち、商品(商品の包装を含む。)又は役務の提供の用に供する物(以下、「商品等」という。)の形状そのものの範囲を出ないと認識されるにすぎない立体商標について、商標が、「商品等の形状そのもの範囲を出ないと認識されるにすぎない」形状のみからなる立体商標は、識別力を有しないものとする(商品等の立体的形状でもすべて立体商標として保護されるわけではない)。また、「商品等の形状そのものの範囲を出ないと認識されるにすぎない」か否かに関する審査は、以下の方針に基づき実施するとしている。

 

〔基本的な考え方〕

(1)立体的形状が、商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合は、特段の事情のない限り、商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断する。つまり、商品等の形状は、多くの場合、機能をより効果的に発揮させたり,美感をより優れたものとしたりするなどの目的で採用されるものであり、自他商品・役務を識別することを目的とすることは少ない。そこで、商標の立体形状が、商品等の機能又は美感に資するために採用されたものと認められる場合は、原則として、商品等の形状そのものの範囲を出ないものとして第3条第1項第3号に該当するものとした。

 

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(2)立体的形状が、通常の形状より変更され又は装飾が施される等により特徴を有していたとしても、需要者において、機能又は美感上の理由による形状の変更又は装飾等と予測し得る範囲のものであれば、その立体的形状は、商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められ、特段の事情のない限り、商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断する。つまり、このような場合においても、(1)と同様に原則として、識別力を有しないものとした。

 

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(3)商品等の形状そのものの範囲を出ない立体的形状に、識別力を有する文字や図形等の標章が付されている場合(浮彫又は透彫により文字や図形等が付されている場合を含む。)は、商標全体としても識別力があるものと判断する。ただし、文字や図形等の標章が商品又は役務の出所を表示する識別標識としての使用態様で用いられているものと認識することができない場合には、第3条第1項第3号又は第6号に該当するものと判断する。つまり、上記(1)又は(2)で述べた立体商標に識別力を有する文字や図形等が付されているときは、原則として立体商標全体としても識別力を有するものと認めるものとした。

 

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ただし、明らかにその商品又は役務の出所を表示する識別標識としての使用態様で用いられているものと認識することができないときには、立体商標全体としても識別力を有するものとは認めることができない。

 

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日本も外国出願指向が明確に

先ごろ特許庁より今年上半期の、1.統計速報、①「出願件数」が下表のように発表された(ここでは特許出願の件数にのみふれる)。これによると6月までで158,526件、前年同期比で▲1.3%減となっており、前年より若干減少し、依然として底を打っておらず、減少傾向が続いている。このままいけば年末までこの傾向が続くと予測される。

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一方、出願全体における企業規模別の特許出願の件数はどうなっているのだろうか。公表されている特許庁「中小企業産業財産権関係データ(平成24年)」再編加工、によれば、下表の通りである。すなわち、大企業の出願件数に比べて中小企業の出願件数はきわめて少ないことがわかる。また、出願企業数では中小企業が大企業に比べて4倍以上の企業数があることがわかる。さらに、1社あたりの出願件数では大企業が98.7件、中規模企業が3.5件、小規模事業者が1.6件であり、大企業と中小企業の間に大きな差があることがわかる。このように企業数では大企業よりはるかに多い中小企業等であるが、出願件数では大企業が断トツに多いのが現実である。

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それでは国内出願は上記のような状況ではあるが、外国出願の方はどうであろうか。WIPO統計からの特許出願人の国内出願・外国出願の推移表(図1参照)によれば、日本は米国のほかドイツ、イギリス、フランスを含む欧米各国に比して国内出願の比率が高く、国内重視の出願戦略をとっているといえる。その一方で、市場のグローバル化を背景に日本では国際出願(PCT)が年平均24.6%の増加率で急増している。それを反映してか、確かに日本から外国への出願は年を追って増えており、少し古い記録ではあるが1999年には60万件近くに迫っている。このことから、日本も欧米各国のように国内重視から外国重視に出願戦略のほうに舵を切ったことがわかる。それが前記のようなPCT出願を経由した外国出願の件数増になっているのであろう。

 

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しかし、外国重視へシフトし外国への出願が増えても欧米各国も同様に増えており、出願増が決して国際競争力を高めるということにはならない。問題は出願の中身である。特に発明という人間の頭脳が産み出すものの優劣が勝負となるから、真に国際競争力を高めるために、日本の企業は是非、優れた発明内容を伴う外国出願を行って欲しいものである。

 

 

 

囲碁は難しい

囲碁は将棋とともに古来より日本で身近に人々に楽しまれているゲームです。私が囲碁をやってみたいと思ったのはだいぶ歳をとってからです。もつと若い時、小中学生の頃にでも手ほどきでも受けていればもう少し強くなっていたかもしれませんが、子供のころは野球に熱中しており、囲碁は眼中にありませんでした。もっとも囲碁は将棋に比べて初めての者にはルールがわかりにくいこともあります。将棋のようにそれぞれの駒の役割がなく、同じ白黒の石だけです。したがって、取っ付きにくく、始めるのがついつい遅れてしまった(仕事に追われてそれどころではないという面もありましたが・・)。

 

数年前から立川にある小さな囲碁の会に入れてもらい月1~2回ほどのペースで打っています。この会は将棋もやっており、会員数は30人程度で、そのうち囲碁派が25人、将棋派が10人、両派使いが8人です。年齢は60代から80代までが多いようです。30人中、有段者は半数近くもいて、私のような級位者には皆、手ごわい相手ばかりですが、置き碁で打ってもらい大変勉強になっています。皆さん一体どのようにして強くなったのか、有段者のS氏に聞いてみたら多数対局するしかないとの返事でした。つまり、多数対局をこなし、石の打ち方、死活などをマスターすることのようです。

 

かつて近くの碁会所の席亭(アマ5段とか言っていた)に打ってもらったことがありますが、そのとき席亭が教えてくれたことは「石は繋がるように打ちなさい」ということでした。それからは自分なりに各種の碁の本を読んで研究していますが、実戦ではなかなか思うようには打てません。布石がそれなりに打てても中盤の打ち方を間違えると攻められて二眼を作れなかったり、あるいはヨセで先手をとれず地を大きく減らしてしまったり、と結果が伴わないことが多いです。それに加えて、囲碁は非常にメンタルな知的ゲームで、仕事などでストレスなどがたまっていると打ち碁に即反映するようです。そんなことで最近はつくづく囲碁の難しさ、奥深さを痛感しているところです。

 

冷涼感ある空調服の未来

今日の日経新聞の社会面に熱中症対策の必需品として空調服を発明した市ヶ谷氏の関連記事が紹介されていた。興味があったので特許庁の検索システムで特許について調べてみたら、同氏はソニー在職中のものを含め200件近く特許出願しており、発明家・アイデアマンであり、実業家でもあることがわかった。

 

空調服については日中暑い外で働く人の作業服に涼風をということから1996年の夏に開発を思い付き、製品化を図ったという。衣服に関する特許もいくつか取得している。例えば特許第3,173,510号が該当するのではないか。当初は生地に設けた通路に水を供給し、気化によって冷却する冷却衣服であったが、生地の背中に当たる部分に設けた半径約5cmの2個のファンで風を取り入れ、汗が気化する際に体温を下げて冷涼感を生むようにしたとのこと。しかし、製品化は図ったものの売り出してみたらファンが壊れ易く、また充電池もすぐ切れてしまい、トラブルが続出したという。しかし、ファンを改良して課題を解決し、市場のニーズがあることもあって徐々に売り上げを伸ばし、今では夏場に着る作業服には欠かせないものとなっているのだという。

 

それでは作業服以外の一般に着る夏用スーツなどはその対策があるのであろうか。まさかファンを取り付ける訳にもいかない。今流行の携帯型ファンを持ち歩くのも煩雑である。そのため、これからどんどん地球の温度が上昇することを思えば、スーツなどでは生地の素材の改良以外にはないのではないだろうか。素材自体に冷涼感があり、人間が快適に感じる体温度に調節可能なもので、着心地もよければファンなどを設けなくとも涼しさを感じるであろう。そのような生地の開発を望みたいものである。