著作権が切れるのはいつか?

クライアントからある画家の著作権切れについて、次のような問い合わせがあった。

1)1942年に亡くなった画家の絵は2003年で著作権が消滅するか?

2)1957年に亡くなった画家の絵は2038年で著作権が消滅するか?

著作権に関しては弁理士の業務範囲に含まれているが、実務ではなかなか取り扱うことがないことと、平成30年改正があったことから死後70まで延びたことまではわかっていたが、詳細がわからない。そこで、いい機会と考え調べてみた。

 

文化庁のホームページへアクセスしたところ、著作者の権利の発生及び保護期間についての欄に、「著作権の保護期間は、原則として著作者の生存年間及びその死後70年間です。」と載っている。また、著作物等の保護期間の延長に関するQ&Aには次のような内容が載っている。

 

■著作物等の保護期間

改正前の著作権法においては著作物等の保護期間は原則として著作者の死後50年までとされていたが、TPP整備法(平成28年法律第108号)による著作権法の改正により原則として著作者の死後70年までとなった(下表参照)。

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■保護期間の計算

保護期間の計算については簡単にするため、すべての期間は死亡した年の「翌年の1月1日」から起算される。例えば漫画家の手塚治虫さんの著作物は亡くなられた1990年の翌年の1991年1月1日から起算して70年後の2059年12月31日まで保護されることになる。

 

■TPP11協定の発効日

TPP11協定の発効日が2018年12月30日となったことにより(著作権法改正も同日施行)、原則として1968年(50年前)以降に亡くなった方の著作物の保護が延長されることになる。例えば画家の藤田嗣治さんの著作物は亡くなられた1968年の翌年の1969年1月1日から起算して、これまでは50年後の2018年1231まで保護されるとされていたが、TPP整備法による著作権法の改正により20年延長され70年後の2038年12月31日まで保護されることになる。

 

■外国人の著作物の保護期間

当該国が条約上保護義務を負う国である場合は我が国におけると同様な保護を受け、原則として70年延長される。但し、相互主義により我が国より保護期間が短い国の著作物はその相手国の保護期間だけ保護される。

 

■戦時加算

サンフランシスコ平和条約に基づき、我が国がベルヌ条約等により著作権を保護する義務を負っていた連合国及び連合国の国民が戦前又は戦中に取得した著作権の保護期間については,通常の保護期間に1941年12月8日(開戦時)から当該国とのサンフランシスコ平和条約発効の前日までの期間の日数(例えば米国やオーストラリアについては3794日:10年半ほど)加算することとなっている(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律第4条)。法的には保護期間70年に加えて戦時加算分が保護される。

 

■保護期間中の著作物を使いたい場合

他人の著作物を利用する場合は原則として権利者の了解を得る必要がある。しかし、権利者或いはその相続人と連絡が取れないこともある。このようなときのために、権利者の許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を請求する途がある。すなわち、文化庁長官の裁定を受け通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより著作物を適法に利用することができる。

 

上記のことから次のことが言える。すなわち、

改正法の施行日はTPP11協定の発効日2018年12月30日であり、その施行日の前日において存在する著作権等の存続期間を著作者の死後70年まで延長する一方、同日においてすでに消滅している著作権を復活させるわけではない(経過措置)。

具体的には、

・1967年までに著作者が亡くなっている著作物は、死後50年を経過した2017年に保護期間満了となっている。

・1968年1月1日~12月31日に著作者が亡くなっている著作物は、2018年満了により死後50年+20年延長となり、保護期間は2038年満了までとなる。

 

したがって、問い合わせの内容の、1)については、亡くなったのが1942年であるから(改正前の著作権法が適用)、1942年+50年+戦時加算を経過した2003年には保護期間満了で既に著作権が消滅している。また、2)については改正法が適用されるので、亡くなった1957年+50年+20年+戦時加算を経過した2038年に保護期間が満了となる、のではないだろうか。

ASEAN特許庁シンポジウム2019が東京で開催されました

今回で9回目になりますが、日本とASEAN特許庁とのシンポジウムが8月7日に東京で開催され、ASEAN東南アジア諸国連合)における最新の知財施策の紹介と共に今後の展望について議論されました。

シンポジウムはパネルディスカッション形式で、(1)第4次産業革命と特許、(2)スタートアップと知財施策、(3)知財の情報発信・普及啓発、について行われました。そしてパネリストである各国の知財庁長官等から最近の動向について話があり、その中の一部をご紹介します。

 

■セッション1:第4次産業革命と特許

マレーシア

マドリッド議定書は近い将来に加盟をすべく検討している。

知財の出願件数は2018年で合計52,998件である。日本からの出願件数は4,655件で、米国の5,367件についで2位である(特許出願では日本がトップ)。

・日本とは、特許審査ハイウェイ(PPH)や、マレーシア知財公社と日本国特許庁との間のデータ交換、要望に応じた研修計画などで協力している。

フィリピン

・コンピュータプログラムやビジネス方法は、特許を受けることができない主題に分類されている。

・今後の方針として、AI/MLをはじめとして新しい動きに対応できるよう知的財産法の改正を近い時期に行う予定である。

シンガポール

・今後経済の原動力になっていくのは無形資産である。2018年現在、世界経済の50%超(60兆米ドル)が無形資産の形で保有されている。

・特許の審査スピードを上げ、出願から12か月間で付与、AIとFINTECHの場合には6か月で付与に至ることも可能。

タイ

知財創造→知財保護→知財の商業化→知財執行、という知財サイクルをベースとしているが、それにGI(地理的表示)と遺伝資源・伝統的知識・伝統的文化表現の2つを追加した。

特許法の改正を早期に実現するように企画している。併せて審査基準の改定も考えている。

 

■セッション2:スタートアップと知財施策

ブルネイ

・2013年に知的財産庁が設置された。知的財産庁は研修プログラムを実施する際にスタートアップに対して知的財産意識の啓発を行うことを通じて、中小企業庁と協力している。

ミャンマー

・これまで長い間準備していたが、2019年の1月~5月にかけて商標法、意匠法、特許法著作権法の4つの法律が順次採択された。WIPOのメンバーにもなった。

・知的財産省の所在地はヤンゴンとネピドーである。

・英語による出願が許容されている。

ベトナム

・マイクロ・中小企業は企業総数の98%(2017年)、50万社を超えている。

・IP VIETNAMは、知財登録、知財情報サービス、知財に関する意識啓発、知財資源開発の支援、を行っている。

 

■セッション3:知財の情報発信・普及啓発

カンボジア

・知的財産の保護は複数の機関が分担して管轄している。すなわち、商標、地理的表示及び営業秘密は商業省、特許、実用新案、意匠、集積回路の回路配置及び植物新品種は鉱工・エネルギー省、著作権及び著作隣接権は文化芸術省、となっている。

・国際協力の一環として日本国特許庁との共同主意書(特許の付与円滑化に関する協力:CPG)が2016年に締結されている。CPG申請手続においては申請書のほか提出書類として対応日本国特許庁特許出願の特許公報の写し、及びその特許公報についての証明書、特許公報に記載された特許請求の範囲及び明細書の英語翻訳文及びクメール語翻訳文、請求項対応表が必要である。

インドネシア

・IP情報の効果的な発信手段としていくつかの事項を実施しているが、IPに関する情報提供不足により、あまり効果があがっているとはいえない。中小企業にIPに関する基本的な知識を普及させることが重要である。

・地理的表示情報普及後の地理的表示登録の効果の例としてアチェのGAYOコーヒーがある。登録前の価格がキロ当たり5万ルピアであったものが、登録後にはキロ当たり12万ルピアに上昇した。

ラオス

・知的財産局(DIP)は1993年に設置されて以来、ラオス全国のIPの管理、保護、振興及び開発を担当している。現在、職員数は59名、8つの部局と1つのIPサービスセンターで構成されている。

・高品質のサービスを提供するためにIP制度の拡充に注力しており、そのためには人材の育成が不可欠である。また、省令の改訂や起草を進めている。

 

※ ASEAN加盟国:現在、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイミャンマーベトナムカンボジアインドネシアラオスの計10か国であり、パプアニューギニア東ティモールが加盟の運動をしている状況。

  

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パネルディスカッションの様子(特許庁HPより)

 

 

今日7月1日は「弁理士の日」です

今日は「弁理士の日」です。弁理士といっても嘗てはあまり知っている人がいなく弁護士に間違えられたり、ひどいときは便利屋に間違えられることもありましたが、近年の知的財産を重視する国内外の動きから知名度が急速に高まりつつあります。

 この弁理士の日が制定されたのは、明治32(1899)年7月1日に弁理士法の前身である「特許代理業者登録規則」が施行されたことに由来するものです。そこで本日は、制定日から120年の節目に当たることからホテルニューオータニにおいて「弁理士制度120周年記念式典・記念祝賀会」が開催されました。

 弁理士は、発明・考案・意匠・商標などの知的財産の創造から保護、活用までをトータルサポートする、知的財産に関する専門家で、今年3月末時点で、会員数11,336人です。また、女性弁理士はその内1,732人と約15%を占めています。この会員数ですが、小泉内閣からの規制緩和推進策によって、ここ20年の間に3倍近くも急増しています。国策で増やしているとはいえ、そろそろ限界に近付いているのではないかと個人的には思います。

 このような弁理士の主な仕事は、特許権実用新案権意匠権、商標権などの知的財産権を取得したい方のために、代理人として特許庁への手続きを行うことですが、そのほかにも知的財産の専門家として知的財産権の取得についての相談、自社製品を模倣されたときの対策、他社の権利を侵害していないか等の相談まで、知的財産全般について相談を受けて助言、コンサルティングも行っています。

 弁理士は、上記したような仕事を通じて、特許庁、顧客としっかりとトライアングルを組み、我が国の知的財産制度、及び経済産業制度の発展に貢献することを目指しておりますので、ご活用いただければ幸いです。 

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マスコットキャラクターの「はっぴよん」です(日本弁理士会ホームページより)

 

座りすぎに注意を!

以前このブログで「座ったまま」の仕事はときには姿勢を変えようという話をしましたが、先日の産経新聞にも同様な記事が載っていた。

 同紙によれば日本人は世界一座る時間が長いそうです。オーストラリアのシドニー大学などが発表した調査結果が下表(産経新聞より)であり、これによれば確かに日本人の平日の総座位時間は400分を少し超える程度と多い。他の国の人と大差がないと感じる方もいると思いますが、やはり気になる数値です。このように座っている時間が多くなると、健康に影響が及ぼす恐れがあり、近年の研究結果によれば肥満、糖尿病、脳血管疾患、認知症などに罹患するリスクが高くなるといわれています。つまり、座る時間が長くなれば筋肉の代謝や血流の悪化を招き、前記のような病気にかかって、死亡するリスクがアップすることになるそうです。

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 私事になりますが、日常の仕事では、デイスクワークが中心であるため、やはり座る時間が多い。朝起きて仕事場へ行き、そこで十時間くらいは過ごすが、昼休みが一時間あるとはいえ、それだけでは短いし、その昼休みですら座わり続けることもあり、なかなか立ち上がって動くことができないのが実情です。

 では、どうすれば現状を打破できるか。私の場合は席から少し離れた位置にあるトイレや給茶機、あるいはコピー機に立ち上がってこまめに行くようにしているほか、ときどきは席から立ち上がり背伸びや腰回りの軽い動きをするようにしていますが、効果があるかはわかりません。しかし、何気ないこのような数分の動きでも歩いて体を動かすので、何もしないよりはよいと思うので、続けています。目標は座る時間を七時間近くまで落とせたらうれしいのですが・・。いずれにしても、座ったままの姿勢を続けることは健康によくないことはわかっているので、自分にあったやり方で座りすぎのライフスタイルを変えていくしかないと思っています。

 

これから起業する人にとても有益なコンテンツ

特許庁は、これから起業しようと考えている人に向け、そのスタートアップをサポートする一環として知的財産に関する大変有益なコンテンツを下記ウエブサイトに公開しています。 

https://www.jpo.go.jp/support/startup/index.html#venture

  起業しようとする人は、業務を始める前に会社名や商品名をどうするか、それらの名称を使って大丈夫か、という心配があります。あるいは、新しく開発した技術・デザインが他社の権利に抵触していれば、せっかくの開発製品もその販売ができなくなってしまうという心配もあります。これらのことを易しく解説してサポートするのがこのコンテンツの中身です。

コンテンツは、「あなたの一歩が世界を変える」というタイトルの下、

知財の3大メリット

知財の基本ルール

・手続概要

・施策情報、等を柱として書かれています。

 このコンテンツを一読すれば凡その知的財産に関することがわかり、今後の事業展開にも役立つものと確信いたします。是非ご参照ください。

 

難聴に効果がある特許が成立へ

難聴は高齢者に限らず最近は若者にも増えている。その原因はヘッドホンやイヤホンを耳に装着して大きな音で長時間聴いていることにも一因しているという。このような難聴者のためいくらかでも難聴改善ができないかと考えて研究開発したのが九州福岡に本社を置く私のクライアントでもある某社です。開発後すぐ特許出願していたが、この度特許庁から特許決定の通知があったので、その概要をご紹介します。

 

この特許に係わる発明は、主にイヤホンの先端部に装着されるイヤーパッドと、それを用いて行う難聴改善耳トレーニング方法です。

イヤーパッドは、下図に示すように最先端側の遮音壁50aを他の遮音壁50b~50eより径が小さく、他の遮音壁を同径としたこと、また外耳道への装着により本体45の放音口46が外耳道内壁に接触して塞がれた状態でも音道の確保が可能なように外耳道内と本体の中空内部を連通する放音路52を最先端側の遮音壁50aにおける放音口46の周囲に形成したことをその構成とするものです。

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難聴改善耳トレーニング方法は、下図に示すように両耳又は片耳の外耳道に挿入したイヤホン5の前記イヤーパッドを、その最先端側の遮音壁50aの外周縁が外耳道内壁に接触し、他の遮音壁50b~50eの外周縁とともに後端側にたわむようにして徐々にフィットさせ、外耳道内部が密閉となるように遮音性と装着性を維持・確保して装着した状態で、イヤホン5に対し耳トレスイッチをオンして、変調しない音を一日数時間、数ヶ月間、継続して放音することにより、聴覚を活性化させて聴力の改善を図るものです。

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上記のような耳トレによれば、①幼少期からの両耳重度難聴(聴覚障害手帳2級)の35歳の女性は、トレーニングを開始して6年目には左右ともに重度難聴110dBから軽度難聴レベルの43~45dB前後まで改善し、②加齢による老人性難聴の80歳の女性は、3ヶ月位には聴力レベルが右45~左33.3dBから右30から左25dB前後まで改善し、③左耳が幼少時からの先天性感音性重度難聴の11歳の男児は、5年目には左110dBから健聴者レベルの左26.7dB前後まで改善したなど幾つかの事例が紹介されている(身体障害者福祉法では、健聴者の聴力は26dB以下と定義している)。

 

某社は、もともとは通信機器関連のベンチャー企業ですが、近年は補聴器の研究開発に技術シフト化を図っており、それが見事に成果として結実しました。これからは特許というよりこの技術をさらに活かして難聴を少しでも改善し、難聴者に喜ばれるイヤーパットやイヤホンを提供して社会に貢献して欲しいものです。

 

 

アディダスの3本線はブランド力がない?

海外の知財トピックスをひとつご紹介します。EU(欧州連合)司法裁判所の一審に当たる一般裁判所(高裁に相当)は、ドイツのスポーツ用品の大手アディダスの3本の平行線のデザインについて、「独自性がない」として商標権を無効としたそうです。

 

アディダスの3本の平行線のデザインと言えば、靴の表面に施され、日本でも有名なブランドとなっています。このように世界的に有名となっているブランドですが、アディダスは3本の平行線がどんな使い方でも自社の商標だと主張しているのだそうです。下記に示すのは、EUで出願し登録されていた問題の商標で、その構成は靴の表面に施されているような傾斜角度に配置されていないばかりか、長さも両端部の形状も同じデザインのものです。たぶん靴用ではなく、スポーツウエアやスポーツパンツ用にデザインされたものと思われます。

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それ故かベルギー企業から異議を申し立てられ、欧州連合知財庁がアディダス商標権を無効として取り消したため、アディダスがそれを不服として取消を求めていたものです。しかし、一般裁判所も審決と同様に3本の平行線デザインは「普通のデザイン」と指摘し、独自性を否定しました。つまり、3本の平行線デザインには、商標権を認めるに必要な特徴(例えば色彩等)がないとして、EU域内でアディダスのデザインだと認識されるための独自性を証明できていないと結論付けたのです。アディダスには今後、EUの最高裁にあたるEU司法裁判所に訴えることは可能のようですが、アディダスは対応をまだ決めていないとのこと。

 

独自性がないとされた3本の平行線のデザインが日本でも出願しているのかどうか調べてみたところ、3本の平行線入りのスポーツウエアやスポーツパンツからなる図形商標については出願し登録されているようですが上記図形のようなEUの3本の平行線そのものについては現時点では出願も登録例もありません。出願はしたけれども拒絶されたことも考えられますから一概には言えませんが、日本での独自性の判断も微妙なところでしょう。しかし、3本の平行線が同じ長さ、同じ幅で平行に配置されたものであっても、これまでの使用実績がそれなりにあるのであれば、その独自性を認めてもよいのではないかと思うのは私だけでしょうか。いずれにしても今後の動向を注目していきたいと思います。